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テレビアニメ『蒼穹のファフナー』と、
その前日談『蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT』のサウンドトラックです。

アニメは2004年に「蒼穹のファフナー」が放送され、
翌年2005年には「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」が
1話完結のスペシャル番組として放送されました。


2010年に続編の劇場版
『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』が公開され、

更に2015年には『蒼穹のファフナー EXODUS』が放送されました。




蒼穹のファフナーは
竜宮島の少年少女がファフナー(ロボット)を駆り、
宇宙から飛来したフェストゥム(地球外生命)と戦う物語です。


ただし、ファフナーは乗れば乗るほどパイロットの命を削る。
子供たちを戦わせることに葛藤を抱く島の大人たち。
さらに、島の外では荒れ果てた世界が広がり、
人間も味方とは限らず(人類軍)、島やファフナーを狙う。
…等々、「子供がロボットに乗って戦う」アニメとしては
かなりハードな内容になっています。



蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFTは
蒼穹のファフナー本編の6か月前を描いた前日談です。

フェストゥムと人類軍の双方から島を守るための
囮作戦「L計画」の壮絶な戦いを描いています。通称ROL。
殴り書きのどうせみんないなくなるに対する
「どうしてあんな事書いた!言え!」という台詞は今でもある意味有名です。



すべてのシリーズにおいて、
平和な日常と過酷な戦いの場面の描き分けが成されており、
そこにも注目してもらいたいところです。
そして、その穏やかな風景と戦場の光景の対比は
劇伴音楽にも遺憾なく発揮されています。



音楽は斉藤恒芳(さいとうつねよし)さんが作曲、
ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団が演奏。

斉藤さんはおもに
映画『イッツ・ア・ニューデイ』、『レイトン教授と永遠の歌姫』や
ドラマ『MM9』、『仮面ライダーキバ』、
アニメ『旋風の用心棒』、『電脳コイル』、『プリパラ』、などの劇伴音楽を手がけ、
また、宝塚歌劇団への楽曲提供もおこなっています。


ワルシャワフィルは今までに、
映画『戦場のピアニスト』、『バトルロワイヤル』シリーズ、
ドラマ『北の国から』シリーズ、『風林火山』、『軍師官兵衛』、
アニメ『ジャイアントロボ』、『剣聖のアクエリオン』、『マクロスF』
…などの劇伴音楽の演奏もおこなっています。


                       ★



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サウンドトラックの仕様はケース1箱、ライナーノーツ(やや厚め)1冊、
ディスクが5枚…と、かなりぎっしりな内容となっております。


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ディスク5枚+厚めのライナーノーツなので、ケースも分厚いです。
通常のCDケースと比べてみると、このとおり。
光沢のあるケースなので、指紋がつきやすい…


サントラの収録内容は

・ファフナー本編とROLから劇伴音楽
・ドラマ2本
・主人公たち真壁一騎、
 遠見真矢皆城総士のキャラクターソング
・angelaが歌ったオープニングテーマ『Shangri-La』と
 エンディングテーマ『Separation』(2バージョン)のテレビ放映サイズ
・エンディング前に流れた総士のモノローグ
・柏原真智子さんが歌う「ワルキューレ」のボーカルアレンジ
(柏原さんは宝塚歌劇団に所属していた女優、
 おもに「イーハトーヴ 夢」や「ベルサイユのばら2001」などを演じました)

…が収録されています。えらいボリュームです。



ライナーノーツにはトラックリストと歌詞カード、
総士のモノローグ、スタッフクレジット、
作曲の斉藤恒芳さんへのインタビューが6ページ、
脚本の冲方丁(うぶかたとう)さんへのインタビューが8ページ、
ふたりのプロフィールも記載。

ページの多さからお察しの通り、インタビューページが充実しています。
斉藤さんのワルシャワフィルでのエピソードや
冲方さんのファフナーにおける生と死、
のちのHAEやEXODUSを匂わせるコメントなど、読み応え十分です。



ちなみに、angelaの曲はテレビ放映サイズでしか収録されておりません。
灯篭流しをした15話のED曲『proof』や
ROLの挿入歌『果て無きモノローグ』、ED曲『Peace of mind』も収録なし。

このアルバムはサントラなので劇伴音楽の収録は充実していますが、
歌モノが目当てでフルコーラスを聴きたい方には物足りないかもしれません。
最新作のEXODUSで使用された曲以外のすべてのテーマ曲を収録した
『蒼穹のファフナー コンプリートベストアルバム』が発売されていますので
こちらをどうぞ…。



                      ★



過酷な戦いを描いたファフナーの物語と、
その物語を彩る音楽をファルシャワフィルが演奏。
だから非常に重厚なサウンド…というばかりではなく、
それぞれの場面の情景に合わせた楽曲が多数収録されています。

この数々の楽曲のクォリティは
映画音楽や大河ドラマの劇伴音楽にも勝るとも劣らないと言っても過言ではないでしょう。
普段はアニメを観ない方や、クラシックなどが好きで耳の肥えた方でも満足できるはずです。


                      ◇


Disc1~3は劇伴音楽が収録されています。ROLの曲はDisc3。



『序章-はじまり-』
改めて聴くと多様にアレンジされて使用されている曲。
「流す涙」、「ファフナー-誓い-」、「あなたはそこにいますか-戦い-」
…など、バリエーションが多いことに気づかされます。

最終話の冒頭の1話からのあらすじでも流れていました…
ファフナーのメインテーマと言ってもおかしくはないんじゃないでしょうか。



『ワルキューレ』
島のコア、皆城乙姫(みなしろつばき)のテーマですが、
あまり関連しない場面でも使用されるときもあります。
この曲も「乙姫」、「Mystic Girl」、「TSUBAKI-理解-」など、
アレンジの種類が豊富です。後の劇場版でもアレンジが流れました。

最終話で乙姫が仲の良かった立上芹や西尾里奈たちに見守られて
次なるコアへ生まれ変わっていく光景を思い出します。
柏原真智子さんが歌うボーカルアレンジ『Mystic Girl』も収録。
曲調と同様、水底のように薄暗く美しい雰囲気を醸す歌詞と歌声は一聴の価値ありです。



ファフナーが出撃する前の成す術もなく踏み荒らされる日常や
果敢に戦いを挑むも爆散する戦闘機などを描いたような『フェストゥム-侵蝕-

避難中に戦闘に巻き込まれる島の住人やフェストゥムに接触されたファフナー、
グレンデル型に喰い荒される別働隊など、
これまた成す術なく散っていく人々を想起させる『ソロモン』、『同化』、『襲来』などなど、
本作における脅威のひとつであるフェストゥムの
無機質さ、不気味さを表現した曲も多いです。


「ファフナーは暗い、悲しい」という意見をよく耳にしますが、
私は劇伴音楽もその要素を大いに担っていると思います。
そして、その楽曲にはひたすら悲しく暗い訳ではなく、
美しさや優しさも含まれています。

『孤独』は、幼い頃のトラウマで疎遠になり、
すれ違う一騎と総士が和解し合えるまでの間に
よく流れていた記憶があります。



そして『翔子-SHOKO-』、

フェストゥムの攻撃に晒された人類軍の艦の救援に回された一騎。
一方、島にもフェストゥムが現れて羽佐間翔子が迎撃。
劣勢の中、翔子はフェストゥムを捕えて天高く上昇して...
悲しさや寂しさだけではなく美しさを感じられる曲でした。



また、このアニメでは平和で穏やかな竜宮島の日常も細かく描かれています。
物語の序盤、島の子供たちがまだ何も知らない頃や、
中盤で一騎が総士と和解した以降の仲間たちとの日々(銭湯とか)で
よく『偽りの楽園』を耳にしました。『想い出』としてアレンジもされています。

また『幸福な刻(とき)』は非常に爽やかで、夏の青空を感じさせる曲です。
序盤にも流れたんでしょうけれど、個人的にはファフナーパイロットたちの合宿の印象が強いかも。
一騎の声優を演じた石井真さんたちが出演したWEBラジオでも頻繁に耳にしました。



そして、高揚を感じる曲として印象深いファフナー出撃のテーマ『ナイトヘーレ開門』
人によっては「エヴァ」のBGMに似てるというそうですが、違いますよね…?
ファフナーを必殺技を繰り出すようなスーパーロボットではなく、
兵器らしいリアルロボットに感じさせる要因はこの曲にも含まれているように感じます。

なによりファフナーの音楽で外せないのが『マークザイン』
苦悩の末、島を離れた一騎が新型ファフナー・マークザインに乗って島に帰還。
島の外の過酷な世界を知り、総士の背負ってきたものや苦しみを理解し和解。
島を襲っていた新種のフェストゥムをルガーランスで消滅。のシーンですね。
仲間の小楯衛(こだてまもる)が命を落とした回でも流れましたが…。

ROLでも『L計画始動』として、前奏のない編曲されたものが流れていました。
演奏が静まり、ドラムが鳴り出し、
徐々に加速して一気に盛り上がるこの曲を聴けば高揚を覚えざるを得ません。
この曲は後のシリーズでも、よく使用されています。


                      ◇


Disc4はドラマCD、二本立てです。本編と同様、冲方さんによる脚本。
主人公である一騎、真矢、総士と乙姫が登場します。
おもに電話越しの会話が展開されます。



『FAFNER in the azure -NO WHERRE-』
物語中盤にさしかかる頃、翔子が命を落とし、
春日井甲洋が昏睡状態になって、一騎が竜宮島を出る直前を描いた物語。

仲間の犠牲を経て、自分の在り方に揺らぎを感じる一騎、
一騎を気遣い、島や総士のやり方に疑問を感じる真矢、
自分に課せられた使命の重さに苦しめられる総士、

…そんな中でそれぞれの善意が
   すれ違いすれ違い悪循環になっていく…

...そんな印象を感じました。
一騎と総士は互いにわだかまりを抱いているので、
ふたりの会話が非常に暗い雰囲気に感じられます。
本編では総士自身はあまり語らなかった
総士が背負っているものについても語られている所に注目です。



『FAFNER in the azure -NOW HERE-』
物語中盤の終わり頃、真矢の父ミツヒロ・バードランドが
真矢の姉、弓子による真矢のファフナー搭乗適性データの改ざんを暴いて島を去った後、
真矢がファフナーに乗る前のやりとりを描いた物語。

これ以上、誰かに死なれたくない事から
真矢のファフナー搭乗を止めようとする一騎と、一騎に手を貸す総士、
使命と家族をかばう為にファフナーのパイロットに志願する真矢、
一騎と総士が抱いていたある誤解から、今度は真矢とすれ違い…

一騎と総士の和解後なので「NO WHERE」と比べて
ふたりの会話にいくらか明るさがある所にも注目です。



個人的に電話越しのたどたどしい(気まずい?)会話が
どことなく年相応の少年少女の会話に感じられて好感触でした。
思えば、竜宮島は昭和の日本をモデルにした街・文化だから
ケータイやスマホなんてないんだ…多分。

そして本編と変わらず、色々な意味で不憫な総士も。

本編では語られないエピソードが詰まっているので、
アニメを既に観た方にはお勧めします。
余談ですが、遠見家の電話の呼び出し音が高すぎて耳に痛い...


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Disc5はオープニング・エンディングテーマとキャラクターソング、
劇中で流れた総士のモノローグが収録。



総士のモノローグはEXODUSとは違い、
死や絶望を予感させる「デスポエム」ではありませんが、
劇中の日常場面や壮絶な戦いの様子をふりかえる薄暗さはこの頃から健在。

物語前半の仲間同士のすれ違い、ROLの戦いを受け継いでいく覚悟など、
総士の年齢相応の心境が語られている所にも注目です。



キャラクターソングは真壁一騎(石井真さん)の『Flugel』、
遠見真矢(松本まりかさん)の『azul』、
皆城総士(喜安浩平さん)『terra』の3曲。


『Flugel』はアップテンポで爽やかな曲。
中盤以降のわだかまりも解け、ふっきれた一騎を彷彿とさせる一曲です。

「舞い上がる空は 悲しいほど蒼くて」など、
ファフナーの世界を意識させるワードも散りばめられています。


『azul』は穏やかで安らぎを感じさせる曲調と歌詞。

「きみはきみだよ それでいい 大切なものはきっと残る」など、
一騎に対するメッセージとも取れる歌詞でした。


『terra』は序盤の総士を歌ったようなバラード。
前の2曲に比べ薄暗い曲調と歌詞です。

「今はすれ違う だけど解りあえる きっと」と
序盤の一騎と疎遠だった頃の総士を思わせる歌詞もちらほら。


キャラクターソングといえば、
私は物語から脱線したような曲が多いイメージを抱いていましたが、
この3曲はファフナーの世界から逸脱していない、安心して聴ける曲でした。



そして、angelaの『Shangri-La』『Separation』(2バージョン)の収録。
いずれも、オープニング・エンディングの尺に合わせた長さに編曲されています。

1ループです。アニメを観た方であれば、思い出補正で悪くは思わないかもしれませんが。
歌を聴きたい方には物足りないと感じるでしょう。

そして、『Separation』のもうひとつのバージョンはピアノ演奏の2コーラス目。
劇中で誰かが戦えなくなった・命を落とした(いなくなった)ときに
このバージョンがエンディングで流れました。
何故、最後のトラックにこの曲を持って来た…

                       ◇


まとめると、蒼穹のファフナーやROLを両方観た人・好きな人にはオススメです。


劇伴だけ聴きたいという方は上記の2作品でそれぞれ通常のサントラが出ているので、
そちらをオススメします。




2016年1月にはアンコールプレス盤が生産され、
通販サイトでは収録曲の試聴ができるので、確認してみてはいかがでしょうか。

 

                       ★


なんだかんだで完結編と噂されていたEXODOSも最終回では、
あきらかにまだ物語が続きそうな要素が散りばめられていました…。

はたして今後、「ファフナー」は私たちにどんな展開を見せるのでしょうか。
とはいえ、また竜宮島のみんなが過酷な展開に翻弄されると考えるとツラいけれど。